原題『8 Femmes』2002年製作
──自分の住まいを極寒のシベリアと表現するギャビー。はたから見れば裕福でも、高い門扉と塀の向こうは何もない退屈な郊外暮らしだ。そんな場所から街まで車を走らせる今日は、1年ぶりに帰省する長女のお迎え。しかし喜びも束の間、主マルセルの刺殺体を発見した家政婦の悲鳴があがる…。クリスマス直前に起きた惨劇に肩を寄せ合うギャビーら7人だが、本当は日頃から不満が溜まる者同士。そこに、絶縁状態だったマルセルの奔放な実妹ピエレットまで飛んで来た。マルセルの死を匂わせる謎の電話があったと彼女は言うが…。奇しくも“秘密を持った8人”が揃い、ホントとウソを交えて思い思いに無実を主張。この先に、怒涛の展開が待っているなんて、今はまだ誰も知らない。
出演者
ギャビー/カトリーヌ・ドヌーヴ :『哀しみのトリスターナ』『しあわせの雨傘』他
オーギュスティーヌ/イザベル・ユペール :『エル ELLE』『ミセス・ハリス、パリへ行く』他
ピエレット/ファニー・アルダン :『隣の女』『ベル・エポックでもう一度』他
ルイーズ/エマニュエル・ベアール :『ミッション:インポッシブル』『午前4時にパリの夜は明ける』他
シュゾン/ヴィルジニー・ルドワイヤン :『冷たい水』『8月の終わり、9月の初め』他
カトリーヌ/リュディヴィーヌ・サニエ :『パリ、ジュテーム』『ローラとふたりの兄』他
シャネル/フィルミーヌ・リシャール :『幸せになるための恋のレシピ』他
マミー/ダニエル・ダリュー :『忘れえぬ慕情』『ロシュフォールの恋人たち』他
スタッフ
[監督・脚本]フランソワ・オゾン :『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』『私がやりました』他
[脚本]マリナ・ドゥ・ヴァン :『まぼろし』他
[音楽]クリシュナ・レヴィ :『落下の王国』他
1950年代のフランスが舞台。したたかに生きる女たちの素顔が、ひとつの殺人をきっかけに炙り出される。第52回ベルリン国際映画祭では“女たち”を演じた8人に銀熊賞(芸術貢献賞)が贈られた。女たちのキャラが際立つ衣装、色彩豊かな空間。愉快にも哀れにも感じられる棘だらけの会話。私は本作をコメディと捉えているが、どの場面も全身全霊を注ぐ女たちにサスペンスフルな人間ドラマを体感するだろう。フランス映画界に咲き誇る名花の競演は、ビギナーにも薦めたい。正統派とは言えないが“らしさ”を感じられる何ともおぞましい結末。そして、若い娘たちとは体のキレが違うカトリーヌ・ドヌーヴの愛くるしいステップも、一見の価値があるはずだ。
ここから先は、映画『8人の女たち』結末ネタバレありのストーリーを綴ります。(本編1時間51分)
また、下記の時間表は、あくまでも目安です。
1 映画『8人の女たち』0h00m~0h36m
普段ここで暮らすのは家族5人。それから古参と新顔の家政婦がいる。主マルセル以外は全員女だ。
「起こすな…と」「パパは まだ寝てるの?」「昨夜は遅くまで仕事を…」
「旦那様を起こしますか?」「まだよ ゆっくり休ませてあげて」
女たちが気にしているマルセルは、大学生の長女シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が帰省したというのにまだ起きて来ない──
自分は美と富を手にした女と言えてしまう、女王様気質のギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)がマルセルの妻。
母として我が子に愛情を注げるが、同居“させてあげてる”自身の母親と妹を見下す傾向が…
だから当然、妹オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)も姉が好きではない。
そして、いつものように売り言葉に買い言葉で口喧嘩が始まると、今日は姪にこんな理屈をこねた。
「私と母がここで暮らせるのは、あなたのパパのお陰よ」
すると「マルセルとギャビーのお陰よ」などと、不仲姉妹の母マミー(ダニエル・ダリュー)が間に入る。
あたかも娘夫婦に感謝している口ぶりだが、やはり曲者⁉
オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)と似て、口外はせず自分の心だけに秘めている事があるようだ──
この家の次女で、天真爛漫な高校生カトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)が起床した。
難癖をつける叔母オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)にも言い返せる、この家の子らしい性格だ──
長女シュゾンもズバッと切り込めるタイプ。その性格は、この先も垣間見れるでしょう。不仲でも良く喋るので、昨夜のアリバイのようなものはまとめます。そして、事件が…
雪は大変でも1年ぶりの我が家は嬉しい!オーギュスティーヌもひがまないで仲良くしましょう
ねえシュゾン、ちょっと太ったんじゃない? 昨日の夜は探偵小説やスパイものを読んでたの
その読書する明かりのせいで寝不足よ!ああ本は嫌い。高校生が探偵小説なんて生意気よ‼
読んでもいいじゃない なにしろ夜中に5回もトイレに行く人だっているわ
5回行って悪い! 喉が渇いて水を飲みに行ったのよ‼
マルセル用の食事を運ぶ、新顔の家政婦ルイーズ(エマニュエル・ベアール)が2階へ。
寝室のドアをノックするが返事はなく、ギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)の許可を得て開けた。
「きゃー!奥様… 旦那様がナイフで刺されて死んでいます ベッドで血だらけです」
動揺する大人たちをすり抜けて、父のもとへ走ったのは次女カトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)。
そして、言葉通りの姿に泣きじゃくると、鍵をかけて探偵小説さながらの現場保存をやってみせる。
だが、すぐに鍵を手放し、遂に長女シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が寝室へ。
オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)とギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)も続き、死体を見た。
今さっきマルセルの仕事(株式ブローカー)が不調だと話したばかりだが、まさかソレを苦にした自殺⁉
しかし、背中に突き刺さったナイフが決め手となり殺人だ──
「警察へ電話!」「通じないわ」「見て!電話線が切れてる」「誰?」
「犬が吠えませんでした」「だから?」「侵入者には吠えるわ」「つまり…」
まず疑惑を持たれたのは、マルセルの新しい共同経営者ファルヌーという男だ。
「ここに1、2度は来たけど、付き合いはないわ ほとんどね」「犬が喜んでファルヌー氏にジャレました」
「犯人じゃないわ」「もちろんよ」
もう1人はギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)が嫌悪する、マルセルの実妹ピエレット(ファニー・アルダン)。
だが、この2人よりも犯人扱いされたのはオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)だ。
やかましくて誰にでも食ってかかる彼女を、古参の家政婦シャネル(フィルミーヌ・リシャール)が睨むと…
全員の視線を浴びるオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)は当然怒り狂い、自殺をほのめかして2階へ。
マミー(ダニエル・ダリュー)も、こればかりは見かねて追い掛けた──
殺害の一因になりそうな“株券”を巡る論争。そして、挙動がおかしい家政婦2人の証言をまとめた(少々誇張あり)。
- マミーとオーギュスティーヌが2階にいるうちに…
シュゾンとカトリーヌには本当の事を話すわね。あなたたちの祖母は保有する株券を枕の下に隠して、困っているパパを助けてはくれなかった。そんな恩知らずのドケチから私が株券を取り上げてパパに渡したの。オーギュスティーヌがそれを知った時は大変だったわ!それと、2人を嫌っていたあの人が愛してたのは“若さ”よ
・・・
- オーギュスティーヌの面倒を見切れないマミーが1階へ…
ああシュゾン!私の話を聞いてちょうだい。この家で信じられるのはあなただけよ。困っていたあなたのパパに私の株券を渡そうとしたの、正確には私の夫が残してくれたモノね。でも「僕の破産は救えない」ってマルセルが受け取らなかったのよ。だから株券は内緒の隠し場所に戻したんだけど、2日前に盗まれてしまったの!あとポルト酒まで‼
株券を隠してたのは枕の下ね!有名よ
- 秘密が筒抜けだと知ったマミーの気が触れ…
人殺しー!泥棒家族ー!
ママ!大声だして何事よ?えっ!株券が盗まれた⁉じゃあ売り払った話は嘘なの?ママがその気なら、私は昨夜のママのことを…、姪の前だから今は言わないけど。きっと株券はギャビーが盗んで誰かさんに渡したのね。嘘つきギャビー!私の分を返せ‼
喧嘩はやめて!パパが死んだのよ‼
- 鋭い目つきでシュゾンが問い詰めると…
昨夜12時、胃が不調だった旦那様の寝室にハーブティーを運んでスグに失礼しました。密告は嫌ですが、庭の狩猟小屋で寝泊まりしているシャネルのところに旦那様の妹ピエレットさんが訪ねて来ました…。酔っ払った大奥様(マミー)が見て、それを私に。シュゾンお嬢様は分からないでしょうけど、カトリーヌお嬢様は大奥様の酒癖の悪さが分かりますよね…ふふっ。ピエレットさんは、ここまでヒッチハイクを。元ヌード・ダンサーらしく色気を振りまいて、何だか私好み…
- まるで容疑者を追い詰めたかのようにカトリーヌが迫ると…
昨夜は12時にここを出ました。訪問者?そんなの10年も来てませんよ。もうカトリーヌはどっか行きなさい!…ったく、母親が甘いせいですよ。こうなったら、聞いてシュゾン!ルイーズの正体は男をタラし込む悪女なんですよ!…あっ大奥様が来た‼私は台所に戻ります…
こうしてゴタゴタしてる間に、何者かが車の配線まで切ってしまい人間関係は悪化の一途。そして…
突然訪ねて来てごめんなさいね。今朝、“兄が殺された”なんてイタズラ電話があって…。ここに電話しても不通だし。急いでヒッチハイクしたのよ。どうして皆黙ってるの?兄さん⁉ねえ寝室の鍵を開けてよ。マルセル兄さんが中にいるんでしょ?
夫は死んだわ。あなた、家の中に入るのは初めてよね。何故そこがマルセルの寝室だと?出入り禁止を無視して会ってたのね。まあいいわ、鍵はピアノの上よ。勝手にどうぞ
えっ⁉開かないって馬鹿なこと言わないで。どういうことなの?ああ、頭がおかしくなりそう…
鍵をすり替えたのは誰?当然、ピエレットも容疑者よ!
あの時、マルセルの死体を見て愕然としたシュゾンら3人は「殺し屋が隠れてるかも!」の声に慌てて鍵をかけた。まさか、こんな事になるとは…
2 映画『8人の女たち』0h37m~0h59m
マルセルの死がキッカケとなり、義理の家族と初めて対面したピエレット(ファニー・アルダン)。
興味があったオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)と、お近づきになれた喜びを黙ってなどいられない。
そして、マミー(ダニエル・ダリュー)らは、2人が同じ読書クラブ会員で恋愛小説『恋人たちのゴンドラ』を読んだ者同士だと知る。
本好きだった事も驚くが、愛嬌も色気もないオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)がまさか恋愛もの⁉
ソレを彼女の次に借りたピエレット(ファニー・アルダン)は、ページに挟まれた手紙の事も隠す気はない。
書かれていたのは、株券を渡して助けてあげたい気持ちと義兄マルセルへの特別な感情だ。
「嘘よ!あちこちに愛人がいる男なんて大嫌いよ」と、逆上するオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)。
叶わぬ想いが殺害の動機?だが当然、特別な感情があるなんて絶対に認めない──
次に注目されたのは、古参の家政婦シャネル(フィルミーヌ・リシャール)だ。
シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)に暴露され、ピエレット(ファニー・アルダン)と以前から親交がある事を認めた。
マルセルにお金を無心するだけでなく、狩猟小屋でカード遊びまでされたギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)は逆上。
そして、マルセルと最後に会った事で疑われた、家政婦ルイーズ(エマニュエル・ベアール)の証言も追い打ちになる。
「すべてお話します お茶を運んだらピエレットさんが部屋に」
「昨夜は会ってない」などと、すぐバレる嘘をついたピエレット(ファニー・アルダン)に視線が集まる──
マルセルとただならぬ関係なのはオーギュスティーヌのみならずルイーズも⁉妖艶な雰囲気が似ているピエレットとは見知った間柄のようだ。隠し事や嘘が次々発覚して険悪な空気は増すばかり。だが、ムキになって言い争う大人たちをまとめる、あの子も嘘吐きだった!以下に、女たちの幾つかの会話を。そして場面は衝撃の告白へ…
…そうそう、忘れてたわ!私は毛糸を取りに1階におりたの、深夜1時頃ね。その時にマルセルの部屋から話し声が聞こえた。…あら⁉ギャビーじゃなかったのね
…わ、私がルイーズと出くわしたのは、み、水を飲みに行ったからよ。チョットした事だから忘れてただけ。マルセルの部屋には入っていないわ
夫婦別室だから、パパの部屋に誰が居るか知らないのよ
仮面夫婦ね
娘が責めるなんて!男運がないピエレットは黙りなさい。ねえ、元々はシャネルがお茶を頼まれたのに何故ルイーズが運んだの?誘惑する気だったのかしら
運んで欲しいと旦那様に頼まれたからです。奥様…誘惑は殺人よりマシです。お茶を運んだらピエレットさんが部屋に居ました。私はスグに部屋を出たので何を話したかは知りません
落ち込む事があって喋りに来たのよ。ルイーズが部屋を出た数分後には私も帰ったわ
確かに台所の窓から帰るのが見えました。お金で口止めも。それと…ピエレットは旦那様に「お金をくれないと“殺すわ”」と
違う!「お金をくれないと“自殺するわ”」よ! 私を娼婦呼ばわりするルイーズだって大勢の男と寝てるわ。信用なんてしちゃダメよ‼
もう、いい加減にしてちょうだい!
この7人の中に必ず犯人がいるわ
ねえ、皆を尋問してばかりのシュゾン刑事は何か隠してないの?私、パパの部屋に入るのを見たわ。まだ居るはずのない昨夜にね!
・・・⁉私はパパを殺してないわ!
カトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)の証言通り、昨夜のうちに地元に戻っていたシュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)。
ある事情を父マルセルに相談するため、家族には内緒で父の部屋で過ごして駅に舞い戻った。
そして、今朝到着したフリをして、迎えに来た母ギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)の車で再び家に…
シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)は、心配して抱きしめてくれる母に涙を流して告白する。
「私、妊娠したの」──
相手の男を心から愛しているシュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)。
だが、結婚前の妊娠など許せないギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)は拒絶した。
すると、過去を知るピエレット(ファニー・アルダン)は、姪に両親の真実を聞かせる。
「マルセル兄さんと結婚する時、すでに妊娠してた… ギャビーは兄さんに拾われたのよ」──
父マルセルと血の繋がりがないと知ったシュゾン。無言を通した母ギャビーも、娘の真剣な眼差しに「彼(本当の父親)の面影があなたに宿ってるわ」と素直に。ギャビーが愛したその人はシュゾンが生まれる前に不慮の事故で亡くなった…それは嘘ではないようだ。真実を話して犯人を見つけると決意した女たち。その本性が、この先もっと暴かれて行く。
3 映画『8人の女たち』1h00m~1h28m
ねえ、シャネルがここを出たのは12時よね?でも、私が毛糸を取りに来たら台所にコートがあったわ。どうして?
…ピエレットを迎えに来たんです。旦那様殺しの犯人はスグ見つかると…こんな大事になるなんて。私はただ愛する女性の秘密を守りたくて黙ってました!兄妹愛がバレないよう。皆さん、私にご不満ですか?
誤解を招く言い方やめてよ!ただ仲が良い兄と妹よ。シャネル!もう私に近づかないで‼こうなったら、私が真実を教えてあげるわ。ルイーズとマルセルは5年前から愛人関係よ!
ええ、お互いに好きでした。…私のお陰で解放された奥様には感謝してほしいわ。旦那様は亡くなりましたが、これからも私は奥様のために働きます
ああ、なんて哀れなマルセル!私と違って下品な女たちの犠牲になったのね。浮気された腹いせに夫を殺したギャビー。そりゃ、娘2人もロクな育ちかたしないわね
モテない女のひがみね!そんなオーギュスティーヌを味方するアルコール依存症のママ‼ドケチの守銭奴は、くたばるがいいわ!私のパパは?ママが毒殺したんでしょ⁉
まあ、なんてことを言うの!ツラすぎて失神しそう…
同じ頃、誰にも手を差し伸べてもらえない家政婦シャネル(フィルミーヌ・リシャール)は、台所で孤独を味わっていた。
だが、ある事に気づいて大慌てでギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)らの元に戻ると、今度は外に駆け出す。
「私が最後の検証を!皆は、ここを動かないで下さい。戻ったら事の真相をお話しします」などと必死だ。
あの必死さには魂胆があるとピエレット(ファニー・アルダン)が邪推し、胸騒ぎを感じた女たちは一斉に散らばった。
そして、戻ったシャネル(フィルミーヌ・リシャール)が「皆、どこ?」と、探す様子を物陰から観察…
すると、突然おおきな発砲音が鳴り、胸を押さえてシャネル(フィルミーヌ・リシャール)が気絶した。
慌てて取り囲む女たちは「シャネルは白よ」と、容疑者から外す──
シャネルの騒動後、今度は毒殺疑惑のあるマミーが気絶させられる!妖艶な家政婦ルイーズを羨む気持ちが残るオーギュスティーヌ。彼女が不器用なのは突然パパを失ったから⁉本音を明かす母娘。そして、新しい命を授かったあの子が妹に真実を告白する…
ギャビーが言った事は事実なの。あなたのパパは仕事も出来て優しくて本物の紳士。だけど、私は嫌だった。離婚なんて出来ない時代よ。…殺したわ。娘2人から父親を奪うのは悪かったけど。もちろん、私は苦しんだ
“苦しんだ”ですって?私はパパの死から立ち直れないのよ!ママなんか殺してやる‼…私の人生は最悪よ
2人で何してるの?オーギュスティーヌ!その手を放しなさい。ママも「殺して!」なんて叫ばないで(ガシャン!)しばらく静かにしてなさい…えっ、オーギュスティーヌ泣いてるの?パパの本当の死因は、あなたを思って秘密にしたのよ。今日は疲れたでしょ。部屋に戻って休みなさい
同じ頃、シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)とカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)は、3人の事を話していた。
そして、「私たちは、仲良くしましょう」と。
だが、子ども扱いする姉に嫌気が差すカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)は、暴言を吐いてしまう。
すると、限界が訪れたシュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)も「お前は妹じゃないわ」と、言い放つ。
異父姉妹だと知って、愕然とするカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)。
真剣な顔をしたシュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)は、もう1つ秘密を打ち明ける決心を…
「誰にも言わない?」「誓うわ」
「お腹の赤ちゃんの父親は… マルセルよ」──
夜になっても、雪は降り続いた。
マルセルとの愛人関係が明るみになったルイーズ(エマニュエル・ベアール)は髪留めを外し、ありのままの自分に。
純潔を守って来たオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)も、妖艶な姿に変貌を遂げた。
今ここには、彼女らとギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)。そして、娘2人。
マミー(ダニエル・ダリュー)とシャネル(フィルミーヌ・リシャール)は、静かに眠っている。
姿が見えないのは、鞄の中に拳銃を隠していたピエレット(ファニー・アルダン)だけ。
長女シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)がソレを見つけた事で、事件の全貌が見えた。
まず、彼女はマルセルに金を無心したけど断られて口論になったわね。それから、狩猟小屋でシャネルが寝静まるのを待ち、早朝1人になったマルセルを殺害した。自宅に帰らず私たちを覗いてた彼女は、“兄が殺された”という電話がって…アレは自作自演よ。そして、この拳銃。あの時の発砲は、犯行に気づいたシャネルに「喋れば命はない」という脅しね
4 映画『8人の女たち』1h29m~1h51m
ピエレット(ファニー・アルダン)を犯人扱いする女たちは「トイレに行っていただけ」なんて、嘘にしか聞こえない。
だが、あっさり言い負かされて、真犯人を怖がる女たちは脱出を試そうと外へ。
2人きりになったギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)に、微笑みかけるピエレット(ファニー・アルダン)。
「黙ってた私に感謝したらどう?愛人がいるわね」などと問うが、責めるつもりはない。
もはや、妹にとって兄マルセルは大事な金ズルで、出し惜しみなんて言語道断。
家政婦ルイーズ(エマニュエル・ベアール)の証言通り「…くれないと殺すわ」と、脅した事実を認める──
“哀れな男”の死をキッカケに、相容れない関係だった2人の間に信頼が芽生え始めた。
夫のことがなければ、今頃は愛人と駆け落ちしていたとギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)は打ち明ける。
ピエレット(ファニー・アルダン)も、本気で愛している男がいると告白。
マルセルから貰った50万フランは青い封筒に入れて、メキシコ旅に行く男に全部あげた…
すると、気まずいが譲る気はないギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、スーツケースから青い封筒を出す。
2人が愛している男は同一人物、マルセルの共同経営者ファルヌーだ──
愕然とするピエレット(ファニー・アルダン)に、お金を返して終わらせたいギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)。
だが、青い封筒には何も入っておらず、すべてを奪われたピエレット(ファニー・アルダン)が襲い掛かる。
2人が我に返ったのは「何してるの?(なぜ、キス?)」と、シュゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)の声が聞こえた時。
オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)たちにも見られたが、2人は誤魔化す──
マルセル殺害事件の裏側を目撃した、シャネル(フィルミーヌ・リシャール)も目を覚まして再び8人が揃う。
そして、キーパーソンとなる次女カトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)が、事件の真実を語り出す。
まだ少しぼんやりしていた、マミー(ダニエル・ダリュー)の目も冴えるストーリーだ。
男は1人で必死に闘った。しかし、強い女たちには勝てず、疲れ切ってベッドに倒れ込んだ。そして…
22時、ドケチの義母が男の部屋にやって来た。保有する株券を渡して男の破産を救おう…など微塵もない。「私の株券は盗まれてしまったの」と、嘘をついて男にダメージを与える。
22時30分、男に好意を寄せる義妹に悪意はない。不器用なりに色仕掛けでアピールするが、何事もなく部屋を出る。
23時、寝室を分けている妻が男の部屋を訪ねる。別れ話のためだ。しかも、相手は男を破産させた共同経営者。男は大きなダメージを受けた。
23時30分、無気力な男の前に妖艶な家政婦が現れた。彼女は“家庭崩壊”を得意としている。
ひっきりなしに女たちが出入りした男の部屋に、今度はカネをせびりに妹が来た。その妹を想う嫉妬深い家政婦も男を見る。
そして最後には、血の繋がらない娘に、自分の子を妊娠したと告げられた。
朝6時を迎えた頃、男は泣くことしか出来なかった…
生きる事に絶望する父を、この女たちから救いたいと決心したカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)。
ギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)らは、殺人を犯してしまった娘を見つめるが真相はそういう事ではない──
「…本当にパパが殺されたと思って、みんな恐怖に震えたわね」
背中に突き刺さったナイフも血も偽物で、死んでなどいないマルセルは寝室に隠れているだけ。
カトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)は父のために7人の女を集め、青い封筒からお金も抜き取った。
電話も車もダメにして、ピエレット(ファニー・アルダン)の鞄に拳銃を隠すのも全部。
発砲は、見上げた窓の向こうにいたマルセルと目が合ったシャネル(フィルミーヌ・リシャール)を脅すため。
たった1人の高校生に、いとも簡単に騙された女たちは言葉も出ない──
「パパは自由になって私と遠くに行くの パパを愛して幸せを願ってるのは私だけよ!」
隠し持っていた鍵で寝室のドアを開けて、父に笑顔を向けるカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)。
だが、次の瞬間には困惑に変わり、こめかみに拳銃を突き付け自殺してしまった父に悲痛な叫びをあげた──