ヒューマンドラマ

“あの頃”から遠ざかった大人に瑞々しい気持ちをくれるのは14歳の凸凹コンビ|奇才F・アキン監督が贈る青春ロードムービー『50年後のボクたちは』


原題『Tschick』2016年製作

──僕はマイク教室では“ぼっち”だし、どういう訳か先生にも僕は頭痛の種みたい別に慣れたしいいけど、夏休み留守番だってさ(大人の事情だからどうしようもない)。それはそれとして、いま一番つらいのは好きな女の子が僕に1ミリも興味を持ってないこと。ああ、もどかしいよ!だけど、強引なチックのお陰で自信を取り戻せた僕はやり切った。あの子もクラスの奴らも驚かせた僕らは最高だよ。そして、無敵になった僕はチックのじいさんが暮らす遠い遠い町に行くと決めたんだ!

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ツトム

物質的な豊かさはあっても理解者共感者と縁がないマイク異質なオーラで転校初日からクラスメイトに敬遠されるチック。こんな浮いた者同士の夏休みに欠かせないアイテムは、年季の入ったロシアオフロード四駆ラーダ・ニーヴァ。そして、彼らの旅の始まりを祝うが如くピアノの貴公子リチャード・クレイダーマン『渚のアデリーヌ』が聴こえて…。この生彩に溢れる旋律は、これから小さな経験を積み重ねて行く14歳の彼らと絶妙マッチング!だけど、チックにとっては生まれる前に流行った、しかも柄じゃないピアノ曲は野暮ったい⁉片やマイクの耳にはスグに馴染んだ伸びやかな音色は、聞き覚えのある大人にも懐かしい気持ちをくれるでしょう。彼らの感情を伝えてくれる様々な楽曲も本作の魅力です。

<span class="fz-12px">ゆきお</span>
ゆきお

原作『Tschick(作家:ヴォルフガング・ヘルンドルフ)は、本国ドイツにとどまらず日本でも愛読されている児童文学(邦題:『14歳、ぼくらの疾走 マイクとチック』)。どうやらファティ・アキン監督自身が“彼ら”に救われたようだし、私もマイクチックの刹那的な疾走感をポジティブに受け取れたトルコ系移民二世としてドイツ・ハンブルクに生まれたファティ・アキン監督の作品を観る時は、色々な意味でエネルギーが必要だと私は感じている。しかし、まだ彼の作品に触れていない方には入門編として推薦したい一本。いずれは、世界三大映画祭(カンヌ/ベルリン/ヴェネツィア)で賞を獲得した作品で、人間の感情の極致を堪能して欲しいとも思う。

ここから先は、映画『50年後のボクたちは』結末ネタバレありのストーリーを綴ります。(本編1時間34分)

また、下記の時間表は、あくまでも目安です。

僕、マイク(トリスタン・ゲーベル)は、父親(ウーヴェ・ボーム)の仕事の都合でこの町に越して来た
そのお陰で同じクラスのタチアナに恋したけど教室で配られた彼女の誕生日会の招待状は僕の分がない。

転校生して来たばかりのチック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)が誘われないのは当然だろうな。
酒の臭いさせてるし親がロシアン・マフィアだって噂もあるヤバい奴…、僕ってそれと同列なんだ。

ああ、気持ちを伝えるチャンスも貰えないなんて、自分の存在価値を今にも見失いそうだよ──

夏休みに入ってすぐ、母親(アニャ・シュナイダー)は断酒入院
僕はしょんぼり見送り、対照的だった父親は同僚と出張(不倫ってバレてるよ)

そして、僕がひとりぼっちになった今日はタチアナの誕生日。
最後のダメ押しに僕の心がぐちゃぐちゃになっていると、あのチック現れて家に上がり込んで来た。

学校では隣の席でも、友達になったつもりはない。
だけど、他のクラスメイトは見向きもしないスカジャンを褒めてくれたり、僕にちょっかいを出す変な奴。

そんなチックにすっかり調子を狂わされた僕は、周りに目もくれずタチアナに誕生日プレゼントを渡せたんだ。
こうなったからには、つまんない留守番なんてする気はさらさらない。

「明日は?」って、僕はごく自然に聞いてた──

チックの「じいさんがいる…」なんて嘘っぽい話に乗った僕は、聞いた事もない“ワラキア”を目指す。
このボロ車も今じゃ凄くカッコイイと思えるから、“借りたとか盗んだとか”もうどっちだっていい

幼稚で無茶苦茶なチックにムカつく事も多いけど、あの怒ったオジサンから逃げ切った時は最高だったな──

缶詰は持って来たけど、冗談抜きで缶切りを忘れチック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)
すると「マイク(トリスタン・ゲーベル)?」って、今度は僕が持参した“ごはん”のジャッジだ。

「缶詰だけでどうする?」なんて皮肉った僕のリュックから出たのは冷凍ピザ。
しょうもなさすぎる僕らは、大笑いした──

僕らの他に誰もいない静かな夜。
星空の下で眠った翌朝はとにかく腹が減って、スーパーマーケットを探した。

だけど、なかなか見つからないし、フリーデマンって男の子に聞いても知らなくて…。

そんな迷子の僕たちを助けてくれたのが、フリーデマンのママが作ったリジ・ビジ(豆ごはん)
別れる時はスイカまでくれて、チャーミングな弟妹との賑やかな時間はあっと言う間だった──

ラッキー続きの旅にピンチが訪れたのは、僕が道端で小便しようと思った時だ。
その自転車はボロ車の横を一度は通り過ぎたけど、運転席の“可笑しい奴”に気づいてUターン…、警官⁉

チックを怒鳴っている警官をただ棒立ちで見ていたら、ボロ車が急発進⁉
鋭い視線を感じた共犯の僕は奪った自転車を必死に漕いで、ヘトヘトの警官から逃げ切ったんだ。

パトカーのサイレンが聞こえないくらい、逃げた森の中はとにかく不気味
マイク 許せよ」なんてチックは言ってたらしいけど、一体どこに行けば会えるのか分からないよ──

翌朝、僕は最初に野宿した場所まで戻ったんだ。
チックは日が落ちる頃にやっと来て、ナンバープレートと色まで変えたボロ車には驚いたし嬉しかったな。

だけど、しばらく走ったらガス欠…、参ったよ──

「別の車からガソリンを抜き取ろう…」
そう提案したのは、チック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)じゃなくて僕のほうだった。

だって、この旅に誘った張本人が「車は返さないと」なんて、キャラじゃないこと言って終わらせようとするから──

いつもの調子で「マイク(トリスタン・ゲーベル)!」って僕を呼ぶチックが、ゴミ山でおどけてみせる。
そして、なかなかホースを見つけられない僕らに、あの乱暴な言葉が聞こえて来たんだ。

カッとなって言い返すチックには喧嘩腰だけど、僕にはホースの在り処を教えてくれた女の子。
薄汚れた格好でも、キレイな目をしているイザ(メルセデス・ミュラー)に僕は出会った──

道具は揃ったけど、僕もチックもガソリンの抜き取りなんて一度もやった事がない
そんな僕らを見かねて手伝ってくれたイザのお陰で、ボロ車は再び走り出すことが出来た。

どうやらイザは、隣国チェコのプラハに行きたいらしい。
何か事情がありそうだけど、チックの悪ふざけもあって僕ら三人は笑って過ごした。

しばらくすると腹が減ったチックは買い出しに行き、僕はイザの長い髪を切る事になったんだ。
誰かの髪を切るなんて初めてだったし、このままファーストキスの流れ⁉

でも、無神経なチックが帰って来てさ──

人並みに観光スポットに寄った僕らは、遥か昔に生きていた人が刻んだ名前を見つけて同じことをした。
そして、この落ち着いた時間を終えた僕らに、突然の別れがやって来たんだ。

とても嬉しそうにプラハ行きのバスに乗るイザ
僕は思いがけないキスに言葉も出ず、遠ざかって行くイザをただ見ているだけだった──

ほんとにマイク(トリスタン・ゲーベル)は情けない男だ…、もっと時間があれば…。

なんて、僕が感傷に浸っていると、うしろからパトカーが追って来た!
結局、僕らのボロ車が目当てじゃなかったけど、一難去ってまた一難。

チック(アナンド・バトビレグ・チョローンバータル)が足を怪我して、もう運転が出来ない。

この旅が終わると感じた僕は、何も成し得ない自分に嫌気がさした。
どうせタチアナイザ(メルセデス・ミュラー)だって…、弱虫で退屈な僕のことなんか…。

こんな僕のネガティブ思考をリセットしてくれたのは、チックのカミングアウトだ。
「俺は退屈してない」っていうのも本心だろうし、何が何でも僕に運転させる気みたい。

チックに背中を押されて、ぎこちない運転も様になった僕は最高の気分で旅を再開。
あの時、ゲイに傾く事もよぎったけど、やっぱり僕は女の子が好きだって思う──

真っ暗な夜道を走る僕らを、一台のトラックが追い越す。

そいつの空気をぶち壊す臭いとブロッキングに、チック以上に熱くなっ
このストリートレースに勝つため、路肩から抜き去ろうとしたんだ。

結局、横転したトラックにボロ車が追突しちゃって警察沙汰の大騒ぎ
素直に捕まるキャラじゃないチックは、足を引きずってでも逃げる気でさ。

だから、僕は着ていたスカジャンをあげて見送った──

「…刑罰は15歳からさ」なんて、チックの勘違いのせいで裁判はそれなりに大変だったよ。

それに、チックだけ悪者して、保身に走る父親(ウーヴェ・ボーム)が心底ムカついてさ。
「脅されてない、二人で決めてやった、運転して事故ったのはです」って言ってやった。

その後、父親は家を出て、母親(アニャ・シュナイダー)は僕を許してくれたんだ──

あの件以来、警官にマークされている僕らだけど、どうやらチックは元気みたい。
(お前らのアレと同車種の)ラーダが盗まれて、大破して見つかった」って警官も怒ってるよ。

新学期に僕がパトカーで登校した理由を学校の皆は知らない。

嘘みたいだけど、あのタチアナも僕の夏休みを知りたがってる。
きっと前の僕なら大喜びだけど今は別にって感じで、とにかくチックイザに会える日が待ち遠しいんだ。

僕らがあの場所で交わした約束…、 「50年後、 ここで会おう」──